舌痛症に漢方

『漢方の臨床』投稿記事です。

舌痛症は、舌に器質的な変化が認められないが、慢性的な痛みやしびれが生じる病気です。40代、50代の女性に多く、器質的な変化が認められないため「気のせい」にされることが少なくなく、治りにくいものとされています。ストレスを抱えている人に多く、歯科治療を契機に発症することもあります。症状は舌の先端や縁にひりひりとした痛みがあります。味覚障害を伴う場合もあります。

原因ははっきりとしておらず、義歯などが合わないことによって起こることもあります。味覚障害を伴っている場合は亜鉛不足の可能性もあると言われています。神経質で几帳面な性格の人に発症しやすいようで、舌のことを気にしすぎると痛みがひどくなるようです。

治療は、義歯などの刺激であれば義歯の調整、亜鉛が不足している場合は亜鉛製剤を服用します。漢方薬が効く場合もあります。また悩みや不安がある人には抗うつ剤や精神安定剤を使用することもあります。

気診(後述)という方法を使って漢方を選択してみました。

【症例】80歳女性 155cm 48㎏

【主訴】舌がひりひり痛い

【既往歴】糖尿病、不眠症(デパスを服用)

【現病歴】10年位前より舌の先と辺縁がひりひりして痛み、お醤油などがしみる。色々な病院を受診。近年は口腔外科を受診し、うがい薬と1年ほど前に白虎加人参湯を投与されしばらく服用するが変化なし。現在はうがい薬のみ使用。

【経過】私の実家の内科を受診の折に舌の痛みが長くあるということで歯科医の私に声がかかった。

気診にて患者の気の状態を調べると、水毒+ 胸脇苦満++ 瘀血+

舌診 淡紅舌、薄白苔、やや乾燥

気診で漢方を合わせてみると柴胡加竜骨牡蠣湯

ツムラエキス1日に1/3包(約0.8g)を夜服用するように指導。

合わせて毎日行う養生も指導。

顎のマッサージ、鎖骨下マッサージ、ソケイ部マッサージ、呼吸法などを行ってもらう。

2回目 4月16日 舌の痛みはかなり改善してきたとのことで同様に投薬。

6月に内科の受診の折に、舌の痛みも違和感ももうないとのことで廃薬。

その後再発はしていない。

考察

患者は以前からの知り合いで、やや神経質な方でした。患者さん自身、舌の痛みはもう改善はないものと諦めているとのことでした。

五行という考えの中に「心は舌に開竅す」という言葉があります。胸脇苦満が強いために心の気の流れが滞っていて、舌への気の流れが悪いのかもしれないと考えました。そこで思い浮かんだ漢方が柴胡加竜骨牡蠣湯です。気診で合わせてみると合ったので試してみました。

柴胡加竜骨牡蠣湯の構成は柴胡、半夏、桂枝、茯苓、黄芩 大棗、人参、牡蛎、竜骨、生姜、大黄

傷寒八九日、、下之、胸満、煩驚、小便不利、譫語、

一身盡重、不可轉側者、柴胡加竜骨牡蠣湯主之。

邪が半表半裏の少陽に内陥し、少陽の内外上下を通じさせる枢機を失調させるので、多彩な兼証を呈す。少陽胆を傷るとさらに心や胃にまで病変は広がった結果多彩な症状を呈すに至ったとあります。

邪が体内の少陽(身体の脇)にこもって内外上下に気が流れなくなってしまい、そこに連なるあちこちの部位に症状が出てしまう。さらに胃や心にも症状が波及している。心が開竅する舌への気の流れも悪くなり、舌の痛みが続いていたと考えました。

柴胡加竜骨牡蠣湯の中の柴胡・黄芩は胸脇の気熱を和し心下以下の血鬱を下降し、胸脇苦満、往来寒熱、嘔、心煩、欬、経水不利、血熱を治すということで、胸脇苦満が取れ、滞っていた心への気の流れがよくなり、舌への気の流れが復活し症状が改善したと考えられます。さらに竜骨・牡蛎は固気し、水血の凝堅を軟らげ、顕著な臍上動悸を鎮め驚癇を治すということで、精神的にも落ち着いたものと考えられます。

漢方で想像以上に早く効果が出たことに驚きました。神経質な患者さんには普通では感じない程度の症状が、かなり強く感じてしまうのではないかと思ったことを反省しました。